厨房で食事する店/dining table in the kitchen
福岡薬院駅から歩いて10分の場所に、飲食店を設計しました。我々の事務所からも近く、2017年10月にスタートしたプロジェクトです。
ステーキと小料理のお店「清喜」を開くということで、相談頂きました。
テナントは鉄筋コンクリート造5階建て新築マンションの1階。大通りに面しているため、車の通りが多く、外壁の黄色が印象的な建物でした。
不動産屋はNewvillage&Projectsさん
ヒアリングでは、
「カウンター12席」
「陶芸家佐藤もも子さんのお皿を使いたい」
「イスは成田さんのセレクト」
「京都のバー、うえとさんのようなカウンタースタイル、ライティングをイメージしてる」
「カウンターにしてライブ感も楽しんでもらいたい」
「3つ星レストランなのに自由に食事を楽しんでいた、サンセバスチャンでの光景が印象的で、日本でもやりたい」
「お店は2人で回したい」
と、楽しそうに語って下さいました。
今回は客席とキッチンの境界は取っ払って、料理人どうしの会話や手元まで見える「厨房の中で食事する店」をコンセプトにしました。
きっかけは、体験からでした。
友人の料理店に営業終わりに遊びに行き、厨房でお互いのプライベートな話をしていました。仕事終わりだったので「お腹がすいた」と言うと、目の前の食材を仕込みはじめました。今思うと、その手捌きが視覚、そして漂う香りが嗅覚を楽しませてくれました。料理してくれている間も話をして待ちました。
できたてのパスタがとても美味しかったのを今でも覚えています。料理人としての彼をあらためてリスペクトしましたし、厨房で食べる体験に特別なものを感じました。
この特別な体験を思い出し、その踏み込んだ距離感を、厨房と客席の境界線を取っ払うようなディテールによって体験としてお客さんに提供できれば、今までにない飲食店のスタイルが生まれると確信し設計をスタートしました。
設計フェーズも分けるといくつかの段階に分かれます。プレゼン2週間前⇧はブレイクスルー 前のプラン二ング。
少し今の形に近づいてましたが見えない境界線はなかなか消えません。
四角い大きなテーブル案には、何度も保健所と打合せを重ねまとまりました。
まだこのPLANも、ワインセラーの配置、客席とサービスの動線の悪さ、キッチンの狭さ、換気や給気、予算など、様々な問題を抱えていますが、かなりコンセプトに近づいた空間になってきました。
最終的に⇩プラン二ングにまとめました。あとはこの提案を受け入れて貰えるのか、ご要望とは大きく違っていたので不安でしたが、本質は捉えた提案になっていると思いチャレンジしました。
完成してみると、大きなテーブルを置いただけの店に見えますが、プレゼンした大切なディテールを3つ紹介します。
①テーブルは段差のないフラットな面
カウンターの段差はキッチンと客席の間に境界線を張るように見えてしまい心理的に距離をつくってしまいます。
キッチンの中で食事をしているような感覚を無意識に持ってもらうために、段差をなくしました。
②様々な人数のお客さんに対応する
この辺りはファミリー層も住んでいますし、単身者もいます。客席は1~5、6人で来られるお客さんに対応できるようにと考えていました。テーブルの角を使えば、様々な人数のお客さんに対応ができるとプレゼンしました。
③テーブル短辺が1450mm
2人で営業するための工夫です。スタッフさんがお客さんに料理を出す時に、回り込まなくても反対側から出せる距離が1450mmでした。これ以上離れると、毎回グルっと回り込んで移動することになるので、洗いものやドリンクをつくる時間が充分にもてなくなります。
ちょっとしたことですが、大事なディテールです。
料理人の目線の高さや照明位置、店内の空気の流れなど、他の隠れたディテールもありますが、長くなるので割愛します。
ぜひ一度お店に足を運んで頂き、体感してみて下さい。美味しい料理と楽しいスタッフさんも待っています。
ほんとはテーブルの中心にある照明のデザイナーRossLovegroveさんの話もしたかったのですが、あらためてしたいと思います。